幼馴染

 人の好き嫌いというのは本当に不可思議だと思う。

 は目の前の男が三角のスポンジをおいしそうにほおばっているのを眺めながら、呆れかえる。一般的には、女子は甘味が好きで、男子は辛党であるというのが好ましいということになっているが、と秋兵―目の前の男のことだ―は全く持ってその真逆だった。
「そんなに熱っぽく見られたら、恥ずかしいじゃないですか」
 差し入れの三角シベリアを二つぺろりと平らげた秋兵が満足げに笑うのに対しては冷ややかな視線を返してやった。
「よくもまあ、そんなものを美味しそうに食べるなって見ていただけ」
 小麦粉を膨らませた生地の間に羊羹を挟んだ「シベリア」という菓子があることは知っていたが、実物を見たのは今日が初めてだった。先日秋兵に助けてもらったお礼に何か差し入れをしようか、と言ったら「シベリアがいいですね」と目をきらきらと輝かせるものだから、こうやって買ってきてあげたものの、あまりの甘ったるさに見ているだけで胃もたれがしそうだった。
「美味しそうにって……?だって美味しいですから」
 会話にならない会話だ。頭を抱える。
も一つ食べてみたらどうですか?」
「だめ、それは他の方の分だから」
 秋兵が差し出してくる三角を丁重に断る。
「他の方って、俺以外に食べる人いるのかな」
「は??」
 先日の怨霊騒動で危うく襲われかけたを助けてくれたのは、秋兵だけではない。精鋭分隊の皆様にお世話になったから、だから差し入れをしようと思い、せっかくなら相手の喜ぶものを差し入れしたいと幼馴染の秋兵に聞いてみたというのに。
「あんたが精鋭分隊の差し入れならシベリアがいいですって」
「ええ、まあ。街の巡回しているとなかなかシベリア買いに行けないんですよね、巡回が終わってからいくと売り切れてますし」
「〜〜〜〜〜〜!!!??」
 声にならない。どうしてこの男は昔からこうなのだろう。無意識に相手を翻弄させる。
「ねぇっ、有馬さんの好きな食べ物は!?」
 は精鋭分隊の隊長の名を出した。平の隊員にはシベリアで許してもらうとして、隊長様にはちゃんとしたお礼を用意せねばの名に泥を塗ることになってしまう。
「ええと、コロッケですね」
 コロッケ。油ものを差し入れってどうなのだろう。でも、好きでも何でもないシベリアを礼として渡すよりはいくばくかマシだろう。
「あんた本当に、覚えてなさいよ!!!!」
 白目をむきながらコロッケを買い直しに走るの背中を見て、秋兵がおかしそうに笑った。

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